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睡眠の質を高める、科学的に正しい「最善の睡眠」とは

  • リラックス
  • ケア
公開日2023.12.26
最終更新日2023.12.27
読み終わるまで10分

とかく忙しい現代人、仕事に追われるなかでプライベートも充実させようとすると、睡眠時間は短くなりがちです。「最近ぐっすり眠れない」「途中で目覚めてしまう」など、睡眠の質に悩みをもつ人も多いよう。そこで今回は、日本睡眠科学研究所で所長を務める野々村琢人さんに、睡眠の質を高める「最善の睡眠法」についてお聞きしました。

Profile
プロフィール
野々村琢人
西川株式会社 日本睡眠科学研究所 所長

学習院大学理学部数学科卒業、理学修士、技術士(情報工学、総合技術監理)。東芝入社後、ソフトウェア工学、IoT技術などの研究開発に従事。2018年に西川株式会社の研究所長に就任し、睡眠生理や寝具、SLEEP TECH®の研究開発を行う。2020年、IoT寝具を開発し睡眠データ整備・連携にも注力している。情報処理学会・日本睡眠学会・日本技術士会所属。
日本睡眠科学研究所 HP

世界でも特殊な日本の睡眠事情

日本睡眠科学研究所は、寝具の老舗メーカー・西川の社内研究所として1984年に設立されました。まだ「エビデンス」という言葉も浸透していない当時、寝具業界は玉石混交。「本当によい寝具とは何か」を追求するため、理想的な睡眠環境を科学的に考える場を設けたそうです。

研究所で所長を務める野々村琢人さんは、日本人の睡眠状況は「世界的に見ても特殊」だと言います。
「日本では通勤電車で眠る人は珍しくなく、会議中に居眠りをしていても『最近、忙しくて疲れているのかな』と思うくらいです。欧米で同じことをすれば、同僚に『病院に行った方がいい』とすすめられるでしょう。それほどの睡魔が日中におそってくるのは病気とみなされるのです」
 
実際、日本人の睡眠時間は各国と比べて短いようです。OECD(経済協力開発機構)が世界33カ国を対象に行った平均睡眠時間の調査(2021年版)でも、日本はワースト1でした。
 
「一般的に、理想の睡眠時間は7~8時間。シニアで6~7時間と言われています。日本人の多くは、1~2時間ほど睡眠が足りていません。よく睡眠の質と量、どちらが大切かと問われますが、どちらも大事。質のよい睡眠のために何が必要かと言えば、まずは量を確保することです。

ただ、せっかく時間を確保しても質が伴わなければ、努力が無駄になってしまいます。その意味で、睡眠の質を高めることも重要です」

睡眠の効果 なぜ人は眠るべきなのか

なぜ人は眠るべきなのでしょうか。野々村さんは、睡眠によるさまざまな効果を語ります。
 
「まず免疫力が向上します。ある実験で、被験者の鼻にウイルスを付与して睡眠時間と罹患率の関係を調べたところ、睡眠時間が短いグループの罹患率が高かったそうです。

また睡眠時間が短いと糖尿病、高血圧などのリスクが上がりますが、最近注目されているのが認知症との関係です。睡眠には、認知症に関わるとされる脳の老廃物「アミロイドβ」を排出する役割があるのではという説もあります。レム睡眠が1%短くなると、認知症リスクが9%も上がるという衝撃的な数字も報告されています」
 

美容の面から見ても睡眠は重要だそう。睡眠中に分泌される成長ホルモンは、お肌のハリを保ち、シワを減らし、骨密度を増やし、脂肪を減らす働きがあります。

また睡眠不足だと、集中力、判断力、記憶力が低下しますが、徹夜をしたときの認知能力は血中アルコール濃度0.1%と同程度だとか。飲酒運転の基準が血中アルコール濃度0.03%ですから、酒気帯び以上の状態です。また6時間睡眠が12日間続くと、徹夜と同じレベルまでパフォーマンスが下がるという報告もあるそうです。
 

このような睡眠の影響に敏感なのが、アスリートだと野々村さんは言います。

「スポーツ×睡眠について多くの研究が行われており、例えばバスケットボールプレイヤーを対象とした実験では、十分に睡眠をとるとフリースローの成功率が10回中7.9回から8.8回に上昇しました。サッカーでも、ゴールやパスの成功率が上がったり視野が広くなったりと、さまざまなメリットが指摘されています」
メジャーリーガーの大谷翔平選手や、プロサッカーの三浦知良選手など、西川が名だたるアスリートのサポートを行う理由はここにあるのです。

意外と誤解が多い? 自分の睡眠状態を知ろう

ところで、「質のよい睡眠」とはどのようなものでしょうか。野々村さんは「日中に眠気が少なく頭がシャキッとしていれば、質のよい睡眠がとれている」と言います。逆に、昼間に眠い、ダルいと感じるなら、睡眠時間が足りないか、睡眠の質が悪いということ。

ただ、本人の主観が当てにならないこともあるそうです。
「『ベッドに入って3秒で眠れるほど快眠』と胸をはる人がいますが、要注意です。寝付きには5分~10分ほどかかるのが一般的で、あまりに早いのは医学的に見れば“気絶”と同じ。睡眠が足りずにカラダが疲れきっている可能性があります。

また逆に『2~3時間しか眠れない』と言う人の睡眠状態を計測してみると、実はしっかり眠れていたということもあります」
そこで役立つのが、IoT技術やAIを活用して、睡眠状態を把握・分析し、科学的に睡眠の質を改善するSLEEP TECH ®(スリープテック)です。

西川ではセンサー付きマットレスなどIoT寝具の販売を行うほか、「ねむりの相談所」で測定器の貸出しサービスなどを行っています。
「もう少し手軽なところでは、スマートフォンで睡眠を把握するアプリの活用や、スマートウォッチやスマートリングなどの使用もよいでしょう」と野々村さん。

まず自分の睡眠にどのような問題があるのか把握することが大切です。

眠りの質を高める方法

野々村さんおすすめの、眠りの質を高める方法をご紹介。まずは今日からできる、簡単3ステップを覚えましょう。

ステップ1 朝起きたら朝日を浴びる

起きたらまずカーテンを開けて、朝日を浴びましょう。眠りに誘うホルモン「メラトニン」の分泌が止まり、体内時計がリセットされます。また幸せホルモンとも呼ばれる「セロトニン」が分泌され、活動モードへ切り替わります。

ステップ2 夕方からはライトダウンする

日暮れに合わせて、部屋のライトを落としましょう。リラックス効果のある暖色系の間接照明を利用するのも◎。副交感神経が優位になり、休息モードへ導いてくれます。照明が暗くなるにつれ「メラトニン」の分泌も高まります。

ステップ3 入浴後は入眠準備タイム

入浴のベストタイミングは、入眠の60~90分前。湯船で温まった身体の体温が下がるときに深い眠気がくるからです。そのため、入浴後の仕事やスマホはNG。交感神経が刺激され休息モードから覚醒してしまいます。首や腕をゆっくりまわしてストレッチをしたり、深呼吸したりして、入眠モードへ導きましょう。

そして大切なのが、身体に負担の少ない寝具を選ぶことです。
「特に重要なのはマットレスです。硬すぎるマットレスだと、頭・肩・腰などに圧力がかかって血行が妨げられ、腰痛や肩こりの原因になることもあります。人は一晩で寝返りを20回ほど行いますが、寝返りが多すぎる場合はマットレスが硬く身体に痛みがあり、無意識に体勢を変えている可能性があります。逆に少なすぎる場合は、マットレスが柔らかすぎてスムーズに寝返りができないことがあります。適度な硬さで、体圧を分散させるマットレスを選ぶことをおすすめします」

パワーナップ(昼寝)で劇的にパフォーマンスがアップする

睡眠時間の確保が大切なのはすでにお伝えした通りです。とはいえ、仕事などの事情でそれが難しい人もいるでしょう。

そこでおすすめなのがパワーナップ(昼寝)です。適切な仮眠をとることで、パフォーマンスが改善することが証明されているそう。

日本睡眠科学研究所では、ANAエアポートサービスの従業員や、東北大学病院の医療従事者に向けた仮眠スペースの提供も行っています。
「仮眠なし、一般的な仮眠、仮眠スペースを利用した場合の、集中力や作業効率の変化を調べた実験があります。一般的な仮眠(うつぶせ寝)でも効果はあるのですが、仮眠室を利用したケースでは集中力の高まりが2時間後も維持され、作業成績も向上しました」

野々村さんがおすすめする、正しいパワーナップの取り方をご紹介します。

正しいパワーナップの取り方

・ 12時~15時までに行う

・ 時間は15分~20分程度

・ 完全に横にならない

※リクライニングなどを利用し30度ほど背中を上げた状態で仮眠する。椅子と机でのうつぶせ寝の場合は、クッションで腕や顔の圧を分散する

部屋は暗くする、もしくはアイマスクをする
仮眠の前にカフェインをとると、短時間でもすっきり目覚められるそうです。ぜひ試してみてください。

「眠いまま過ごす人生」はもったいない

最後に、野々村さんからWELL GOOD読者の皆さまにメッセージをいただきました。
「私は徹夜や残業を自慢してしまう世代です。けれど今、“眠たかった人生”は本当にもったいなかったと感じています。頭も身体も60点で過ごしてきたわけです。睡眠は基本であり必須ですから、睡眠時間を確保したうえで人生を過ごす。『眠る時間がもったいない』というのは、それこそよい人生から遠ざかるもったいない考え方です。限られた時間で取捨選択すると、本当に大切なものが見えてきます。仕事もプライベートも充実させたいなら、しっかりと眠るべきなのです」

インタビューを終えて

野々村さんのお話を聞き、睡眠がパフォーマンスに与える影響の大きさに驚きました。何かを成すために睡眠時間を削るのは、もう古い考え方。これからは、人生を充実させるために眠りを重視する、思考のアップデートが必要だと痛感しました。

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